*月下  桜 の 世界*



廃村を告げる活字に桃の皮 ふれればにじみゆくばかり 来て  東 直子

     廃村を告げる活字に桃の皮 ふれればにじみゆくばかり 来て    東 直子




わたしのみた風景です。




高校生の女の子。


食後のデザートの桃はいつもおかあさんが用意してくれる。
くしがたに切ってあってフォークで刺してたべるのだ。
それはそれでおいしいんだけれど、西瓜をスプーンでちまちまと種をとりながら
一口づつ食べるのと似ていて、「なんだかちがう」のだ。

桃も西瓜もぼたぼたと指や手や顎なんかを果汁をしたたらせながら
前屈してかぶりつくのが「ただしい」食べ方だとおもう。


きょうは夏休みで、うだるように暑くって。

なんかないかな~って冷蔵庫をあけたら桃があった。

今日こそ、「ただしい桃」のたべかたを実践するにふさわしい。


適度に冷えた桃はわたしがいうのもなんだけど、少女の肌のようで、
うっとりする。
色もすてきだし、産毛すらかわいらしい。
それにいいかおりがする!
これは少女といわずしてなんといおうか。
手にとって眺めているだけでうっとりする。


食卓に無造作におかれた新聞の山から適当にひとかたまりを取り出し、
じっくり桃を鑑賞してから皮を剥く。

この皮を剥くのもたのしい。

夏休みに日に焼けた肌の皮を剥くのがたのしいように、
薄く薄くちぎれないようにぺろーんと剥いてゆく課程が楽しい。
集中力を最大限に発揮して慎重に剥くすがたは、
まるで日本画から和紙を剥離するときの緊張感に似ているではないか。

すぐちぎれてしまったときはかなしく、くやしい気持ちすらする。
大きくめくれたときにはそのまんま保存しておきたい気分にすらなってくる。


うまく剥けたところから、かぷりとくちをつける。
口のおおきさに適度にあわせた範囲を剥いていくのがちょうどよい。
あまり剥きすぎると、汁が滴りすぎるから。

ひんやりとした甘美な桃の香りが口のまわりに漂って、しあわせなきもちになる。
桃が不老長寿の果物だったり、邪気をはらったりするのもわかる気がする。

歯の隙間に繊維がつまるのが難点だが・・・




二口目をかじるころ、わたしは手元にきがついた。
桃の汁が垂れている。
皮をおいたところも滲んでいる。
新聞の下の文字がみえる。



廃村  



廃村って 村がなくなるってことかな。

だれもいなくなるのかな。
だれもいなくなったのかな。
それとも、ダム建設かなにかで移転することになったのかな・・・?

廃抗とか廃校とか廃業とかはなんとなくわかるようなきがするし、
しかたないよねっていう歴史の必然性みたいな雰囲気も感じる。

廃村って・・・よくわからない。
規模が大きすぎるからかな。
廃町もないし、廃国もないもんね。


桃を手にしてぼんやりしていたら、小さな女の子のちいさな声が聞こえたような気がした。


「来て」・・・


え、なに・・・?


「来て」・・・


わかんないけど、たしかにきこえる。ような気がする。

「来て・・・きこえたでしょう」

泣いているちいさな女の子。
黒髪のおかっぱ頭。薄紅の着物に赤い帯。

「この村がなくなってしまうの。」

「この村にだれもいなくなってしまうの。」

「わたし、ずーっとずーっとここの村の家で暮らしてきたの。
わたしのこと、みんなたいせつにしてくれたの。わたしもみんなのこと大切にしたよ。
ずーっとずーっとそうやって暮らしてきたの。」


「この村がなくなってしまうってきいたわ。わたしはこの村からでられない。だから・・・来て・・・」


「来て・・・」


「来て」




桃を持った手首から腕をつたって肘から、
ぽたぽたと汁が垂れる。
女の子の涙のように。
桃も熱をもってきているように感じる。
少女の頬・・・?

わたしは身動きできない。
桃を片手に汁を滴らせて。
どこへもゆけない。
来て。わたしをこの時間から抜け出させて。





(2010・08・05)




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by tsukisitau | 2010-08-05 22:38 | *短歌の世界*
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