忘備録として既に発表している短歌をしるしておきます。
おめだるいことですがご了承くださいませ。
2012年(平成24年)
1月号 杜沢 光一郎選
両腕を思いきりとおくへ伸ばしたら抱きしめられるような青空
振り向けば君もおなじく両腕をぐうんと伸ばせり秋空のもと
なぁんにもしなくったって気持ちいい空を見上げてあはあは笑う
2月号 武田 弘之選
一反の経糸(たていと)三千八百本ふたりがかりで一日かかる
膨大な経糸にまた糸かける綾なすために三本ごとに
「糸の張りに合わせて織る」とのたまえる北村の織りは祈りのかたち
文様が変化してゆく幾何学の花から丸へ丸から波へ
3月号 特選『B席』 狩野 一男選
神戸では雨の上がれる朝なれど一時間後の東京は雨
地下鉄の終着駅は三階で狐につままれたままの渋谷駅
「まだやで」と乙女が言いぬ神戸行きスカイマークの117便
B席は東京タワーと東京にさよなら、またねと言うための席
呼応するこだまのごとく響きあう鼓のポートタワー ただいま
4月号 特選『群鳩』 桑原 正紀選
旋回する鳩の群れありて革命のエチュードのごと不意に降りくる
雷雲の色纏う鳩が降りてきて喉ふくらませひとしきり啼く
公園の鳩の群雲うごめきて近づきにけり吾の足元
土砂(つちすな)にさざなみあると見えければ数多残れる鳩の足跡
黄緑のバックネットの菱形にすぽりすぽりと雀がはいる
鴨川に鴨おらずして白鷺の十五羽ほどが佇んでおり
5月号 特選『雪の標本』 狩野 一男選
薄氷(うすらい)の紋様妖しく艷めきて人差し指で触れてしまいぬ
南極の底にねむっているというむかしむかしの雪の標本
順位より「腰きついやろ」と心配すスピードスケート観てるおばちゃん
身を低くかがめたるまま滑りゆくスケート選手の表情みえず
スキー靴脱ぎたる後もしばらくは履いたままだと脚錯覚す
そういえばありんこ見ない日の続き気づかぬまに冬深まりぬ
6月号 特選『野菜のこえ』 奥村 晃作選
白菜の種知らずして白菜をはりりはりりと剥がしゆくなり
白菜の採られし後(のち)も生きていて芯より葉っぱうまれつづける
蕪の葉をざくりと切れば如月の雪のした萌えさみどりの見ゆ
刻むとき野菜のこえの聞こえぬを大いなるものの計らいとせん
浅葱(あさつき)の黄緑緑深緑 椀に落とせばぱっと散るなり
7月号 特選『傘』 津金 規雄選
旅先の最終日にはいつも雨 黒き雨傘また二本増ゆ
雨傘の歌詠みおれば「あまがさき」不意に車掌の声の降り来る
低き傘二つ歩けばその後ろ明るき傘がひとつ歩めり
黒き傘二つならんで昼時のサラリーマンの背広が揺れる
雨しげく降れる日なれば雨の歌ばかりを流すファミレスに居る
8月号 木畑 紀子選 (その2三圏)
機嫌よく過ごしいるらしメールには笑顔の顔文字ひとつ添えられ
ファミレスで歴史小説二冊読む吾のほかにはファミリーばかり
たぶん二泊三日くらいになるかなと玄関で告げる君のやさしさ
9月号 田宮 朋子選
さやえんどう色した椅子が真四角に一粒一粒並んでおりぬ
大型犬吼えるごとくに白髪のサラリーマンのくしゃみ響きぬ
われ思案しつつ歩めば「とりあえず」若き男の応え降りくる
10月号 特選『蛇の坂道』 小島 ゆかり選
朽ち縄というより伸びた自転車のチューブのかたちに横たわる蛇
坂道をのぼりゆく猫振り向いて歩きこし道確かめている
むくむくと影動き出し黒き犬ベンチに座る主人へと寄る
二時間の後にも同じ場所でみる散歩途中の犬とおじさん
残像のへばりついている辺り避けつつのぼる蛇の坂道
11月号 特選『靴下たち』 大松 達知選
真っ暗な洗濯槽から真っ黒な靴下たちを掴みだしたり
あかるみに出でたる黒き靴下が鰻のごとく籠に重なる
一尾づつ品定めする 漆黒の靴下たちは微妙にちがう
君の手がスマートフォンに触れるたびスマートフォンを叩き壊したし
くちびるはスマートフォンに代われないわずかなれども優越感もつ
12月号 特選『快速電車』 田宮 朋子選
雷と思えどなかなか近づかず雨雲をゆく飛行機の音
電車での通勤やめたからだろう一段飛ばしで駆け上がれない
超えてきし神崎川をまた越えて京都に向かう快速電車
満員の電車の行く先くるくるとまわって表示は「回送」となる
立ち止まることなき少女の群れのなか吾はひとりで立ち尽くしたり
*同年1月より 『桟橋』に入会させていただきました。
12首詠、添削なしです。
批評会(10時から17時までみっしり)に参加したら、自分の歌の批評も伺えます。
(もちろん、ほかのかたの歌の批評も指名されます。。。)
ほかの方の批評を伺っているのも、ものすごく勉強になります。
*2012年は8回も特選に選んでいただきました。しかも6首採っていただいた月もあり、
ありがたいことです。
提出歌に添削が入って掲載されていることもあり、手元の原稿と見比べるのも非常に勉強になります。
連想・類想の歌は、ともすればごっそり落ちてしまうことも判明。
選歌と配列の重要性を感じます。
*さやえんどうの歌はのちに自解も発表。高野公彦さんの読みも併せて。
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